Süskind (film)/邦題「ナチスの犬」(2012)を見た。

GyaO!の無料配信、今日3/27(木)まで。

今日配信終了の無料のもので見たかったのは、『自虐の詩』とこれだったのだが、両方見ているヒマはなかったので、少し迷ったが、早朝こちらのほうだけ見た。(自虐〜のほうは今回はあきらめる。)

見てよかった。とてもひきこまれた。泣くまではいかんかったけど、泣きそうになった場面はあった。

内容についてはまったく知らなかった。

ウィキによればhttp://en.wikipedia.org/wiki/S%C3%BCskind_(film)、概要は以下の通り。

監督は、ルドルフ・ヴァン・デン・ベルフ

主人公 Walter Süskind については、実在の人物がモデルになっていて、演じているのは、
Jeroen Spitzenberger という役者さん(この人がすごくよかった)。

(※余談だが、よく似た綴りで、Walter Süsskind だったか、そういう人も実際にはいて、しかもその人も音楽関係の人物のようなので、最初モデルについて検索していた時に一瞬迷った。でもその人は、この映画の Walter と違って、戦後もずっと生き延びたようだし、ユダヤの子どもたちの大規模な救出劇に関わっていない。詳しくは読んでないけど。)

(以下、Süskind (film) のウィキ記事より。)
Plot

The film is set in Amsterdam during the German occupation of the Netherlands. A
group of people, including the Jewish Walter Süskind try to help children escape the
Holocaust.

Cast

Jeroen Spitzenberger as Walter Süskind
Karl Markovics as Ferdinand aus der Fünten
Nyncke Beekhuyzen as Hanna Süskind
Katja Herbers as Fanny Philips
Nasrdin Dchar as Felix Halverstadt
Rudolf Lucieer as David Cohen
Rob van de Meeberg as Abraham Asscher
Peter Post as Albert Konrad Gemmeker
Tygo Gernandt as Piet Meerburg

(コピペ終わり。)


Süskind には、素敵な奥さん(ハンナ)がいて、二人の間には小さな女の子がいる。彼は、ナチ占領下のアムステルダムで、オランダ劇場の支配人となった。時代設定は1942年。(彼は30代半ば。)

人間的にとても魅力がある。家族思い、仲間思いで、正義感の強い、熱いところのある男だが、上に立つにはちょっと弱々しすぎるのでは?と感じるくらいやさしいところもある。

マジメと言えばマジメなのだが、頭の回転が速く、現実的で、必要があれば平気で大胆な嘘もつける、度胸のある、機転のきく人として描かれている。

演じている役者さんの雰囲気もあって、とてもチャーミングというか、かわいらしいところのある、でも骨太で人間臭い人物。

映画の最初のほうでは、ユダヤ人評議会の様子が描かれている。(途中もちょこちょこ出てきてたと思うけど、とにかく、状況がめちゃくちゃなのに、そしてますますひどくなっていくのに、彼らはずっと他人事みたいにしている。)

ハンナ・アーレント』を去年見たわたしにとっては、ユダヤ人評議会の長老たちのあの感じは、「やはりここでもか…」という追認のようなものとなった。(ヴァルター・ズュスキント、映画の字幕では「ウォルター・ススキンド」は、the Dutch Jewish council (Dutch: Joodsche Raad) のメンバー。メンバーになったんだっけな…映画の最初のほう、あんまり流れがよくわからんかってんけど;)

彼らユダヤ人評議会の長老たちは、ナチ親衛隊とも仲良くしてるらしく、収容所送りのリスト作成について、ドイツ人は数だけを言って、実際に誰をリストに入れるか・入れないかは評議会が決めている、といった事情が、皮肉っぽく描かれていた。

そして結局、ズュスキントも、その仲間になって、というか、いつの間にかリスト作成の最高の責任者みたいなところまで行くのに成功(あのメガネの老紳士に見込まれたんだっけな)。最初はリストに自分の名前もあったのにもかかわらず。


で、邦題にもあるように、ズュスキントが劇場支配人&評議会メンバーとして、若くしてリスト作成の権限を握ってから、「ナチスの犬」になっていくわけだが…

彼自身はドイツ系ユダヤ人なのだが、自分をドイツ人だと言って、ドイツ側の責任者の友達になっていくプロセスが、とてもリアルに描かれている。

その相手の Karl Markovics 演じる生粋のドイツ人、フェルディナント・アウス・デア・フュンテン大尉(フュンフテン大尉?)のリアリティがこれまた素晴らしく、印象に残る存在だった。

フュンテンもまた、家族が戦争で傷つけられ、戦争を憎むという人間的な側面を持っている。でも、一見とても非人間的というか、無表情で厳格な人物として振る舞っている。そんな孤独なフュンテンは、ズュスキントの人たらし的な才能?のせいで、徐々にズュスキントを友達として信じるようになる。打ち解けると実はとてもいい奴なのだ。(少なくとも映画ではそう描かれていた。)

ズュスキントがフュンテンの友として、誕生日のパーティに招待されるまでになったおかげで、単なる噂だと言われていたガス室の話もズュスキントの耳に入ってくることになる。(彼は、途中まではずっと、単に労働のためにユダヤ人らが収容所へ列車移送されていると信じていたのだった!) ズュスキントは、自分がフュンテンに信頼されているのをいいことに、陰で大胆な救出作戦を続け、表面だけ取り繕い、フュンテンはまんまと騙されたまま。

でも、そんなフュンテンも厳格な組織の一員であり、上から常につつかれて(ちょっと甘いんじゃないか?騙されてるんじゃないか?と)、職務(しかも非情な)と友情のはざまで揺れている。その揺れを、Karl Markovics は、あくまでストイックに演じている。情熱的なズュスキントとは対照的に、あんまり表情に何も出さないまま、フュンテン大尉の気持ちの移り変わりがこちらにも伝わってくる。

結局、ズュスキントは、フュンテンを逆に飼いならして、ユダヤ人の子どもたちの救出を大胆にやってのけたわけだが、やがてそれもゲームオーバー。

最後の二人の対峙のシーンも見ごたえがあった。すごくかなしかったけど…でもやっぱり、ズュスキントにとって妻と子どもと一緒にいることは絶対で、フュンテンは或る意味、ずっと自分を騙していた相手に、最後に情けをかけたのだった。


ヴァルター・ズュスキントは、実際に数多くの子どもをホロコーストから救った(リスト作成の責任者でありながら、子どもたちは巧みに逃がし、あちこちに匿わせて、あの列車に乗せなかった)。ただ、ほとんどの命は、あのめちゃくちゃな状況にあって、救えなかった。

ズュスキントら自身も結局逃げられなかった。でも、最後の希望のように、あれだけの危機にあったシモンとロースは生き残った。本当にこういうケースもあったのかどうか、わたしにはわからないけど…。(たぶんこれは映画でのフィクション的要素だと思って見ていたのだが、最初のほうから、知り合いの子であるシモン君とローズちゃんの幼い姉弟の存在が随所で見せ場のように描かれていて。)